ある朝、彼はカフェオレを飲んで、私を見もせず、何も言わずに雨の中を出ていった…
ジャック・プレヴェールの詩にのせてマレーネ・ディートリッヒが歌う「朝の食事 Déjeuner du Matin」は、不思議な魅力で聴き手の想像力をかき立てます。
プレヴェールやディートリッヒの人生をたどりながら、動画や解説とともに工夫をこらしたカタカナルビ付きフランス語歌詞もご紹介します(印刷用PDF付き)。
貴方もプレヴェールの詩の世界をお楽しみください。
「Déjeuner du Matin 朝の食事」ってどんな曲?
★作詞 Jacques Prévert ジャック・プレヴェール
★作曲 Joseph Kosma ジョゼフ・コズマ
★歌 Marlene Dietrich マレーネ・ディートリッヒ
★発表年 1962年
歌詞はこのような内容です
彼はカップにコーヒーを入れた
ミルクを入れ
砂糖を加えて
スプーンでかきまぜた
彼はカフェオレを飲んで
カップを置いた
私に話しかけることなく
彼は煙草に火をつけた
煙の輪をつくって
灰皿に灰を落とした
私を見もせずに
彼は立ち上がり
帽子をかぶり
レインコートを着て
雨の中を立ち去った
私に何も言わず
私を見もしないで
私は頭を抱え
そして泣いた
聴き手が自由に解釈できるジャック・プレヴェールの詩
「Déjeuner du Matin」はジャック・プレヴェール(1900-1977)の詩集「Paroles (ことば)」(1946年)に収録されています。
とてもシンプルな単語と文構造で成り立っていますが、読み手により様々に解釈される詩です。
「彼」とは誰なのか? 夫? 恋人? 息子? 父親?
「私」とは誰なのか? 妻? 彼女? 母親? 娘? それとも同性の恋人?
どんな朝のシチュエーションなのか?
喧嘩のあと恋人が黙って出ていく別れのシーン?
妻と別居するために夫が家を出るシーン?
それとも戦場に赴くシーン?
息子が母親に反抗して家を出ていくシーン?
「彼」にはもはや愛情がなくなっているのか?
それとも別れの悲しみに耐えているのか?
マレーネ・ディートリッヒはどんな解釈で歌っているのでしょうか?
物憂い感じで歌っていたマレーネが、「彼」が帽子をかぶって雨の中を出ていくくだりで突然激しく変わる音調の中、感情の昂ぶりを歌い上げます。
そしてだんだん諦めのような悲しみを押し殺した表現で終わる…
短い詩の中に、「私」の「彼」に対する複雑な感情の起伏がよく表れている、さすが名女優ならではの表現力です。
平凡な朝の光景なのに、読み手、聴き手が自由に想像力を働かせて解釈できる不思議な詩であり、不思議な魅力に満ちた曲です。
名作映画「天井桟敷の人々」の脚本も手がけた詩人ジャック・プレヴェール
ジャック・プレヴェール(1900年 - 1977年)は、パリ近郊のヌイイ=シュル=セーヌに生まれ、15歳のときにパリの百貨店で働き始めます。20歳で兵役についたのちパリに戻って、映写技師の弟が働く映画館に入り浸るようになり、やがて映画や舞台の脚本を書くようになります。
フランス古典映画の名作「天井桟敷の人々 Les Enfants du paradis」(1945年公開)の脚本も手がけるなど、数々の映画製作に携わると同時に、詩人としても活躍。プレヴェールの詩はシンプルで分かりやすい言葉でつづられ、何冊もの詩集が出版されて好評を博しました。
撮影所仲間の作曲家ジョゼフ・コスマとの共作は、「美しい星で À la belle étoile」(ジュリエット・グレコ)を皮切りに50曲以上に及び、エディット・ピアフ、イヴ・モンタン、コラ・ヴォルケールなど多くのアーティストにより歌われました。
代表曲は「Les feuilles mortes 枯葉」、「Barbara バルバラ」、「Les enfants qui s'aiment 愛し合う子どもたち」、「Je suis comme je suis わたしはわたしよ」など。
子供が生まれたのをきっかけに童話も書くようになったり、ピカソやシャガール、ミロなどと美術書の編さんにも携わっています。
映画「モロッコ」でハリウッド・デビューし一世を風靡したマレーネ・ディートリッヒ
マレーネ・ディートリッヒ (1901 – 1992) はドイツ人女優で歌手。「リリー・マルレーン Lili Marleen」の歌で有名ですが、フランス語シャンソンも歌っています。
ベルリン生まれのマレーネは幼少時に父親を亡くしたため、生活費を稼ぐために酒場で歌い始めます。独学でフランス語を学び、ヴァイオリニストをめざして国立音楽学校に入ったものの、手首を痛めて断念。
演劇学校で学んで舞台に立ち、端役で映画に出演したりするうちに、アメリカの映画監督ジョセフ・フォン・スタンバーグに見いだされます。
アメリカに渡りハリウッドデビュー作となった映画「モロッコ」(1930年、共演ゲーリー・クーパー)で、アカデミー主演女優賞を受賞。個性的な美貌と脚線美、セクシーボイスで世界的女優となり一世を風靡しました。
フランスとの関わりが深いマレーネ・ディートリッヒ
第二次大戦中、ヒトラーにドイツに戻るように要請されましたが、反ナチスのマレーネはそれを断りアメリカ市民権を取得。
慰問団の一員として、ヨーロッパ各地を米軍兵士の慰問で巡った際に、兵士たちが口ずさんでいた「リリー・マルレーン」を歌うようになります。
戦後は、訪米公演で出会ったエディット・ピアフと親友になり、戦時中から交際していたジャン・ギャバン(戦前から戦後まで活躍したフランスを代表するスター俳優・歌手)とパリでしばらく暮らすなど、フランスとの関わりは深く、1992年にパリの自宅で亡くなっています。
「Déjeuner du Matin 朝の食事」の動画
マレーネ・ディートリッヒの写真でつづる動画です
往年の名女優マレーネ・ディートリッヒの魅力的な写真満載の動画です。
Déjeuner du Matin - Marlene Dietrich
マレーネが歌っている映像が一部だけ入った動画です
写真の間にところどころマレーネが歌っている映像が入っている貴重な動画です。画質はよくありませんが、彼女の雰囲気が伝わります。
Déjeuner du Matin - Marlene Dietrich
美しい朗読による「朝の食事」の動画
カナダ・ケベック出身のジル-クロード・テリオー Gilles-Claude Thériault (詳細不明)の朗読。発音の勉強になると思います。
Déjeuner du matin - Gilles-Claude Thériault
Youtube活用メモ
一緒に歌う場合は、テンポを遅めにしたり、ループ再生にすると便利です。
*画面をクリックすると右下に出る「歯車マーク」をクリックして、「再生速度」を 0.75 か 0.5 に設定しましょう。
*画面を長押し(パソコンの場合は右クリック)して「ループ再生」をオンにしましょう。
*Youtubeサイトに移動せずに本サイト上で再生するとCMが入りません。
※すぐ歌われる場合は、こちらをクリックしてください。
本サイト独自の発音表記について
フランス語をできるだけ正しく発音するために、次のことをご確認ください。
シャンソニアネット独自のルビ表記と発音について
★「r」は「ら、り、る、れ、ろ」とひらがなの赤字で表記。喉を震わせて発音します。
★「鼻母音」は「~」を添えて表記。鼻から息を抜きながら発音します。次の3種類があります。
①「an, em, en, em」は、口を大きく縦に開けた「オ」の形で「ア~」と発音。「オ~」「コ~」「ソ~」「ト~」など青字で表記。「r」につくときは「ろ~」。
②「in, im, ein, ain, un, um」は口を横に開いた「エ」の形で「ア~」と発音。
③「on, om」は、口を丸くすぼめて鼻から「オ~」と発音。
⇒ その他の発音など、詳しくは「フランス語発音のポイント」「本サイトのルビについて」「歌う前の準備~歌ってみよう」をご参照ください。
リエゾンやアンシェンヌマンについて
単語を続けて発音する「リエゾンやアンシェヌマン」の箇所には下線を引いてあります。歌手により異なる場合もあります。
「Déjeuner du Matin 朝の食事」日本語訳
日本語訳や曲の解説をしているお勧めのサイトはこちらです。
⇒ 朝倉ノニーの歌物語「Déjeuner du Matin 朝の食事」
「Déjeuner du Matin 朝の食事」フランス語歌詞
単語一つずつではなく、歌のメロディやフレーズに合わせてルビの区切りを入れてあります。
同じ歌手でもアレンジやバージョンによって、また別の歌手が歌う場合なども、歌詞が異なる場合があります。
印刷用歌詞 PDF(ルビつき&ルビなし)
印刷する場合は歌詞(ルビつき&ルビなし)のPDFを下記よりダウンロードしてカラー印刷してください。
⇒「Déjeuner du Matin 朝の食事」歌詞(PDF)
ルビつきフランス語歌詞
短めにフレーズを区切って表記していますが、スマホの場合は画面を横長にしてスクロールしながらご覧ください。
「Déjeuner du Matin 朝の食事」
Il a mis le café
イラ ミ ル カフェ
Dans la tasse
ド~ ラ タッス
Il a mis le lait
イラ ミ ル レ
Dans la tasse de café
ド~ ラ タッス ドゥ カフェ
Il a mis le sucre
イラ ミ ル スュクる
Dans le café au lait
ド~ ル カフェ オ レ
Avec la petite cuillère
アヴェク ラ プティトゥ キュイエーる
Il a tourné
イラ トゥるネ
Il a bu le café au lait
イラ ビュ ル カフェ オ レ
Et il a reposé la tasse
エ イラ るポゼ ラ タッス
Sans me parler
ソ~ ム パるレ
Il a allumé
イラ アリュメ
Une cigarette
ユヌ スィガれットゥ
Il a fait des ronds
イラ フェ デ ろ~
Avec la fumée
アヴェク ラ フュメ
Il a mis les cendres
イラ ミ レ ソ~ドゥる
Dans le cendrier
ド~ ル ソ~ドゥりエ
Sans me parler
ソ~ ム パるレ
Sans me regarder
ソ~ ム るガるデ
Il s'est levé
イル セ ルヴェ
Il a mis
イラ ミ
Son chapeau sur sa tête
ソ~ シャポォ スュる サ テートゥ
Il a mis son manteau de pluie
イラ ミ ソ~ モ~トォ ドゥ プリュイ
Parce qu'il pleuvait
パるス キル プルヴェ
Et il est parti
エ イレ パるティ
Sous la pluie
スゥ ラ プリュイ
Sans me parler ※1
ソ~ ム パるレ
Sans me regarder
ソ~ ム るガるデ
Et moi j'ai pris
エ ムワ ジェ プり
Ma tête entre mes mains ※2
マ テートゥ オ~トゥる メ マ~
Et j'ai pleuré.
エ ジェ プルれ
※1(原詩)Sans une parole
※2(原詩)Ma tête dans ma main
フランス語歌詞(ルビなし)
リエゾン、アンシェンヌマンの箇所に下線をつけてあります。
"Déjeuner du Matin"
Il a mis le café
Dans la tasse
Il a mis le lait
Dans la tasse de café
Il a mis le sucre
Dans le café au lait
Avec la petite cuillère
Il a tourné
Il a bu le café au lait
Et il a reposé la tasse
Sans me parler
Il a allumé
Une cigarette
Il a fait des ronds
Avec la fumée
Il a mis les cendres
Dans le cendrier
Sans me parler
Sans me regarder
Il s'est levé
Il a mis
Son chapeau sur sa tête
Il a mis son manteau de pluie
Parce qu'il pleuvait
Et il est parti
Sous la pluie
Sans me parler ※1
Sans me regarder
Et moi j'ai pris
Ma tête entre mes mains ※2
Et j'ai pleuré.
※1(原詩)Sans une parole
※2(原詩)Ma tête dans ma main